受精の仕組みを解明するための研究

 今回、日本獣医生命科学大学 応用生命科学部 動物科学科 動物生殖学教室

岡田 幸之助 准教授に、研究についてお話を伺いました。

現在どのような研究をされているのか教えてください。

 生命の始まりの第一歩となる“受精”に欠かせない生殖細胞である“卵子”のことを深く知るために、主にブタを用いて受精前の卵子特性について研究しています。

 

なぜその研究に取り組まれているのでしょうか?

 動物生殖学教室では、生殖補助技術の開発・改良に関する研究も進めています。
 生殖補助技術というのは、人工授精、体外受精、顕微授精などの技術のことです。生殖補助技術は、食料動物の品質向上や効率的な生産をはじめ、医療・薬品開発分野、動物遺伝資源の保存と復元など、多くの分野で広く活用されています。
 ただ現在、真に確立されている(高再現性、高普及率)生殖補助技術は人工授精(ウシ)しかなく、他の技術については今後のさらなる改良が望まれています。ちなみに、スーパーなどで並んでいる牛肉やミルクは、ほぼ100%人工授精によって生み出されたウシから生産されています。

 

売っている食肉のほとんどが人工授精によるものとは驚きです。 

 はい。そこで、受精の仕組みをより詳しく解明することができれば、生殖補助技術の改良に活かすことができると信じています。

 また、受精前の卵子の状態は、受精と受精後の胚発生の程度を大きく左右するといわれています。そのため、受精前の卵子の特性について研究を進めています。

 

 

(写真)ウシの人工授精の様子

 

具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

 卵子の中には「核(DNA)」と核以外の「細胞質」という物質がありますが、細胞質の中に含まれる「小胞体」という物質に着目しました。
 小胞体にはCa2+(カルシウムイオン)が多く蓄積されています。卵子と精子が結合すると、小胞体からカルシウムイオンが放出され、卵子内のカルシウムイオン濃度が急上昇する現象がみられます。

 

 

 

 

※ 岡田幸之助.二価陽イオンと精子抽出物によるブタ体外成熟卵母細胞の活性化に関する研究.
  農学博士論文(神戸大学大学院自然科学研究科) 2004:57

 

 

 上のグラフと画像は、蛍光強度が強くなるほど、卵子内のカルシウムイオン濃度が上昇することを示しています。卵子内のカルシウムイオン濃度上昇は、一連の受精現象の引き金となる細胞内のシグナルであり、その機構は卵成熟過程で確立されると言われています。
 この現象に関連して、仮に小胞体がカルシウムイオンを十分に備えていない場合、受精にどのように影響するのかに興味を持ちました。現在、実験的操作を加えやすいことなどから、ブタの卵子を用いて研究を進めています。

 

カルシウムイオン濃度が上昇する現象は一度だけ起こるものですか?

 動物(生物)種によっては、一度だけでなく反復的に生じるケースもあります。精子に含まれる物質が卵細胞質内に拡散することによって起こるといわれていますが、なぜ反復的に生じるのか、その機序や意義について未だ不明な点が多いです。

 

 

 

※ 岡田幸之助.二価陽イオンと精子抽出物によるブタ体外成熟卵母細胞の活性化に関する研究.
  農学博士論文(神戸大学大学院自然科学研究科) 2004:60

 

 

今後の展望を教えてください。

 卵子内のカルシウムイオン濃度上昇が受精にどのように影響するのかを解明し、卵子の本質や受精の仕組みを良く考察しながら、生殖補助技術の改良に役立てていきたいと考えています。

 

取材メモ

 今回、ご自身の研究についてとても丁寧に説明してくださいました。岡田先生の研究が生殖補助技術にどのように貢献していくのか、楽しみです。
 また、動物生殖学教室では、東京農業大学、麻布大学と合同で勉強会を開催しているとのことです。他大学とのこうした取組みについても今後取材できればと思います。

 

 岡田先生の研究にご興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください。
  日本獣医生命科学大学研究探訪: http://www.nvlu.ac.jp/research/006-03.html/
  動物科学科研究室紹介: http://www.nvlu.ac.jp/animal/members/006.html/